「相続税は鑑定評価を使えば下げられる、と聞いたのですが本当ですか」——当事務所には、こうしたご質問がしばしば寄せられます。答えは「下げられる場合もあるが、どんな土地でもではない」です。
インターネット上には「鑑定評価で相続税が安くなる」という話が溢れていますが、仕組みと限界を正しく理解しないまま進めると、かえって税務署との争いを招きかねません。
この記事では、鑑定評価による時価申告がなぜ相続税の圧縮につながるのか、その仕組みと、近年厳格化している「総則6項」との関係、そして節税ありきの危険性を、鑑定実務の視点から整理します。
1. なぜ路線価が「時価より高い」ことがあるのか
相続税の土地評価は、原則として路線価方式で行います。路線価は、実際に売れる価格(実勢価格)のおおむね8割程度を目安に設定されています。ですから通常は「路線価 < 時価」で、路線価で申告するほうが納税者に有利です。
ところが逆転する土地がある
しかし、次のような土地では路線価が実勢価格を上回ることがあります。
- 不整形地(旗竿地・L字型など、使いにくい形の土地)
- 接道義務を満たさず再建築ができない土地
- 浸水想定区域や崖地など、需要が弱い土地
- 借地権や底地など、権利関係が複雑な土地
路線価はあくまで道路ごとの標準的な価格ですから、個別の弱点を十分に反映できません。詳しくは路線価と実勢価格の違い、不整形地の評価をご覧ください。
2. 鑑定評価による時価申告の仕組み
路線価が実勢価格を上回るなら、その路線価で申告すると相続税を払いすぎることになります。ここで登場するのが鑑定評価です。
「時価」で申告する
相続税法22条は、財産の価額を「時価」と定めています。路線価はその時価を求めるための便宜的な方法にすぎません。ですから、不動産鑑定士が求めた時価のほうが路線価より実態に近いと合理的に示せる場合には、鑑定評価書(国家資格者が基準に従って適正価値を判定した公的文書)を根拠に、その時価で申告できます。
数値イメージ
たとえば路線価評価で4,000万円となる不整形地が、鑑定評価では実勢を反映して3,000万円だったとします。差額1,000万円について、税率が仮に30%なら相続税を300万円圧縮できる計算です。土地の弱点が大きいほど、この差は開きます。
3. 2022年最高裁と総則6項——厳格化する運用
一方で、鑑定評価による申告には注意すべき大きな論点があります。それが評価通達の総則6項です。
総則6項とは
総則6項は、通達(路線価方式など)で評価すると「著しく不適当」になる場合に、国税庁長官の指示で別の方法により評価し直せる、という規定です。もともとは納税者側だけでなく、課税庁が「路線価では安すぎる」と是正するためにも使われます。
2022年最高裁判決
2022年4月、最高裁は、路線価による評価が実勢と大きく乖離し、明らかに節税目的と認められる事案について、総則6項を適用した課税処分を適法と判断しました。具体的には、多額の借入で不動産を購入し路線価評価で相続税をほぼゼロにした事案で、鑑定評価による時価での課税が認められています。
この判決以降、行き過ぎた節税スキームには総則6項が発動されるという運用が定着しました。
4. 「節税ありき」の危険性と正しい向き合い方
ここまでで、鑑定評価には「納税者が払いすぎを防ぐ」側面と、「課税庁が過度な節税を否認する」側面の両方があることが見えてきます。
節税ありきは危険
「鑑定評価を使えば必ず安くなる」という発想は危険です。土地の実態を反映しない、結論先にありきの鑑定は、税務調査で否認されるリスクが高く、かえって加算税などの負担を招きます。
当事務所が大切にしているのは、節税のための評価ではなく、あくまで適正な時価の評価です。結果として路線価より下がることもあれば、下がらないこともあります。適正であることこそが、税務リスクを避ける最大の防御になります。
税理士との連携が不可欠
相続税の申告方針や、鑑定評価を使うべきかどうかの最終判断は税務判断を伴います。最終的には税理士にご確認ください。当事務所は、税理士と連携しながら、その判断の土台となる適正な時価評価を担います。
まとめ:使えるケースと使えないケースを見極める
- 路線価が実勢価格を上回る土地では、鑑定評価による時価申告で相続税を圧縮できる場合がある
- ただし整形地で乖離がなければ効果はなく、鑑定は不要
- 2022年最高裁以降、節税ありきのスキームには総則6項が発動される
- 大切なのは「安くする評価」ではなく「適正な時価評価」
奈良県内の土地について「うちの土地は鑑定評価で下がるのか」を知りたい方は、まずご相談ください。初回のご相談は無料です。相続のための鑑定評価もあわせてご覧いただき、ぜひお問い合わせからお気軽にお声がけください。